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中小企業の経営者には知っておいて欲しい「特許」のあれこれ(m&n掲載記事)

m&n2017.1-2のIP(インタヴューパーソン)通信第12回に掲載された記事を掲載します。


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中小企業を中心に特許出願業務やコンサルティングを行っており、2011年に日本弁理士会の副会長を務めた弁理士井澤幹氏に、中小企業が持つべき特許の考え方について伺った。

特許業務法人

井澤国際特許事務所
代表弁理士 井澤 幹

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特許について勘違いされている方(経営者)が多い

Q.やはり中小企業にとって特許を取得するのは難しい事ですか?

(井澤)中小企業だからとか、大企業だからとかで特許の審査レベルが変わる事はありません。確かに大企業は働く人が多いですから、開発力に違いが出るのは当然です。しかし、1つの開発にかける思いは、中小企業の方が大きい様に思います。その思いが大きければ開発に費やす労力は大きく、その結果良い製品が生まれ、日本の技術力を支えているのだと思います。ただ残念なのは、その開発品を特許で保護しようとする中小企業の方はあまり多くおられないという点です。中小企業の方とお話しすると、「特許はハードルが高いから…」「特許はお金がかかるから…」「特許なんか出せる規模の会社じゃないですよ…」とよく言われます。本当にそうでしょうか。確かに特許出願に約30万円、特許取得までを考えますとトータル60万円程平均でかかります。しかし、製品開発には、人件費から材料費、金型費、試験外注費など多くのお金がかかります。これだけ多くのお金をつぎ込んだ開発品を、守ることなく市場に出せば、「外を裸で」歩くようなものです。技術は盗まれ、海外で安く作られ、最終的には市場を奪われてしまいます。これでは元も子もありません。特許費用を開発費に含めて最初から考えておけば「手が出ない程高い」という印象にはならないと思います。中小企業にとって一つの開発品は、会社の今後を左右する大きな比重を占めておりますから、大企業よりも、特許で守ることが重要視されるべきだと思います。

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日本の特許出願の約90%を大企業が占める現実 

Q.中小企業の特許出願件数は徐々に増えていると聞いています。

(井澤)確かにここ数年増加しております。意識の高い経営者が増えてきたからでしょう。ただ数字的にみますと目立った変化はありません。2016年版中小企業白書概要によると、日本の企業のうち0.3%が大企業、残りの99.7%を中小企業が占めております。しかし、特許出願の割合はというと大企業が約90%を占め、中小企業は約10%に留まります。日本の年間の特許出願数は30万件弱ですから、380万者(社)以上の中小企業でたった3万件しか出願をしていないという計算になります。出願件数は特許に対する意識レベルを測る物差しですので、中小企業の知財戦略については、まだまだたくさんの伸びしろがあると考えております。

資源に乏しい日本が他国に唯一誇れるのは知財資源 

Q.日本の特許出願件数が年間約30万件という事で予想以上に多くて少しびっくりしました。

(井澤)日本の年間の特許出願件数は、中国、アメリカに次いで3位です。これは誇れる点かもしれません。資源の乏しい日本がこれだけの経済大国に発展した要因は卓越した技術力の他にありません。特許出願件数はその国の技術力を示す物差しであるとすると、世界3位は素晴らしい事です。しかし、日本の技術力は大企業だけでなく、多くの中小企業により支えられております。この380万者(社)以上ある中小企業がもう少し知財意識を高めて年間1件ずつでも出願をするようになれば出願件数世界1位も夢ではありません。

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出願をするだけでも大きな意味がある 

Q.ただやはり特許取得となると中小企業にとってはハードルが高いですね。

(井澤)特許取得となると大企業にとってもハードルは上がります。費用も年数もかかります。なにより日本特許庁の審査は世界一厳しいと言われています。特許を取得すれば出願から最長で20年間「市場を独占」出来るのですから特許取得が難しいのは当然かもしれません。では、年間約30万件の特許出願全て特許取得を目指しているかというとそうではありません。実は、約30万件ある中で特許取得を目指すのはその半分です。日本の特許制度は出願をしただけでは審査を受けられません。出願から3年以内に「審査請求」という手続きが必要で、特許庁に10万円以上の審査請求費用を納める必要があります。審査請求をしなかった出願はそのまま取り下げとなります。それでは、審査請求をしなかった約15万件の出願は無駄だったのでしょうか。いえ、出願をするだけでも大変大きな意味があります。「特許出願中」という表記を見たことがあると思いますが、この表記があると他社は警戒します。将来的に特許になる可能性があるため、例えその製品が売れていて同じような物を作りたいと思っても、この表記があると模倣を躊躇します。これを「抑止力」といいます。つまり、出願をするだけでも少なくても3年間は特許取得と同じ様な独占的効果を得ることが出来ます。ライフサイクルの短い製品はこれで十分かもしれませ

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特許での抑止力が消えた後はブランド力で販売力を維持 

Q.特許が消滅した後は、誰もが自由にその特許製品を作れるようになると聞いています。

(井澤)もともと市場は自由競争。法律で独占禁止法があるように本来「独占」は許されません。特許等の知的財産権は、その独占禁止法の例外として認められた権利ですので、限られた期間内でしか独占出来ないという点は受け入れるしかありません。しかし、短期間でも独占できる期間があればその間に出来ることがあります。それはその期間でブランドを育てることです。製品には必ず名前があります(製品番号ではなく抽象名称にする方がベター)。そして、当然、企業は独占している間もその製品の品質向上に努めます。そうすれば、自ずと、〇〇という製品は「品質が良い」・「前買って良かったから次も買おう」など、独占期間中に製品名を顧客に覚えさせる事が出来ます。製品名を商標登録すれば半永久的に独占が可能です。

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弊所のクライアントに樹脂製の湯たんぽメーカーがあります。本来湯たんぽは小判型をしておりますが片側を扁平にして縦に置くことができる新規な湯たんぽを開発しました。特許や意匠をとって構造・形態について独占をしましたがそれらが消滅した後は模倣品が一気に増えました。しかし、製品名を「立つ湯たんぽ®」として商標登録を取得していたので、模倣品がたくさんある中でも「立つ湯たんぽ®」として販売力を継続できております。「®」は、「Registered Trademark」といって、商標登録していることを示すものですね。ちなみに「©」は「copyright」の略、著作権を示すものです。

ご相談は「知的財産に関する専門家」である弁理士に 

Q.なるほど、中小企業にとって知財への意識向上は必須ですね。それをサポートしてくれる専門家がそばにいないとなかなか難しいですね。

(井澤)はい、その為に我々弁理士がおります。餅は餅屋の通り、「知的財産に関する専門家」(弁理士法第1条抜粋)である弁理士にご相談ください。特許事務所は何となく堅苦しく関わりづらいという印象をお持ちの方が多いようですが、そんなことはありません。お気軽にお問合せください。

 

お客様の明るい顔と接するのが一番の喜び

Q.最後に、井澤さんにとって弁理士の仕事をしていて特に嬉しかった瞬間は?

(井澤)我々弁理士の仕事は開発品についてのご相談や、新規商品のネーミングについてのご相談、つまりこれからの将来的な夢や希望を持った方からのご相談が多いので、事後的なご相談を主とする弁護士さんとは違って、お客様の顔が一様に明るいという印象を個人的には持っております。自然とこちらも明るくなります。また、出願した開発品や商標が市場で実際に売られているのを見るとすごく嬉しいですね。

私は高校時代ラグビーをしていて全国大会(花園)にも出場したぐらい頑張っていたのでラグビーは今でも大好きですが、先日、日本ラグビーフットボール選手会のロゴのご相談が元日本代表主将から直接頂いたときは個人的に興奮しました。音楽グループ「いきものがかり」の商標登録をした時もファンだったので感無量でした。

廣瀬俊朗氏(日本ラグビーフットボール選手会代表理事)と.JPG

(元日本代表主将廣瀬様と事務所前にて)

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(実際のm&n掲載ページ 2017.01.02)

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